
Taronyasbub
35.65450, 139.74539
港区、増上寺。 明徳四年――600年余り前に開かれた伽藍の背後に、無機質な直線が居並ぶ。 宇宙の尺度から見れば、人類の営みは表皮一枚に過ぎない。 その薄皮の上で、数百年分の祈りと数十年分のコンクリートが同じ夕陽に染まっている。 この寺は幾度も焼け落ちている。 大火、放火、空襲。そのたびに伽藍は立て直された。 数百年続いているのは建物ではない。立て直し続けた意志の方だ。 構図の片隅で、男がスマートフォンを構えている。 連れた犬は露知らず、足元の草に鼻を埋めている。 遥か昔にここで手を合わせた者、焼け跡に最初の柱を立てた者、今この瞬間を画面に収める者、ただ草の匂いを追う者。 同一の空間で、無数の痕跡と意識が交錯している。 時間とは、人が引いた境界線に過ぎない。 この時空では、すべてが同時に在る。 本当の孤独は、存在しない。